エピソード 28 / 50
リナの手術制限時間が残り12分になったとき、第3都市北部の水路が止まった。
貯水量 27時間。
北部循環ポンプ流量 0。
原因は都市の中にはなかった。
土塁の外3.4キロメートルにある機械共同体がポンプを管理していた。第3都市は彼らを「回廊」と呼んでいた。人間がつけた名前で、機械たちは自分たちの集団を名前では呼ばなかった。
ナミが言った。
「修理要請を三回送った。応答がない」
「直接行ったら?」
ミラが尋ねた。
「境界までは行ける。中は許可をもらわないと入れない」
「機械に許可をもらうの?」
「私たちの水を動かすポンプだけど、施設は彼らのものだ」
ダニエルは医療棟の画面を見ていた。
手術前抑制剤 開始可能時間 00:11:32。
「今、水路が止まったら手術は?」
アシャが答えた。
「準備用水そのものを割り当てられない」
「リナはもう拒否しました」
サラが言った。
「考えを変える時間は残ってるだろ」
リナの培養槽の膜はまだ不透明だった。
ダニエルがガラスに近づいた。
「リナ。北部ポンプの故障で、選べる時間がもっと短くなるかもしれない」
返事はなかった。
「聞いてるよな?」
膜の内側から声がした。
「聞いてる」
「最後に一度だけ――」
「パパが最後って決めないで」
ダニエルは口を閉じた。
ミラは北部修理班に志願した。ジン、ルイス、ベクも行くと言った。ベクの熱は38.4度まで下がっていたが、すねの黒い斑点は残っていた。
「あなたは残って」
サラが言った。
ベクが尋ねた。
「命令か?」
「医療上の勧告です」
「危険は?」
「外で再び曝露すれば、感染なのか毒性反応なのか、もっと区別しにくくなります」
「ここにいれば?」
「体温と斑点の変化を観察できます」
ベクは修理班の名簿から自分の名前を消した。
「今回は勧告を聞く」
イアンがミラについて行こうとした。
「どうして行こうとするの?」
「機械の音を聞けるから」
「だから連れて行かないの」
「必要だって言われるのは嫌でも、僕が使いたいときは使っていいだろ」
ミラは反論できなかった。
「接続はしない。痛くなったらすぐ言って」
「僕が決める」
「わかった。その代わり、一緒に行く人には危険を知らせて」
イアンは鼻血と指の運動低下、信号混線について自分でナミに説明した。ナミは条件付き同意として記録した。
手術制限時間 00:07:04。
ダニエルはリナにもう一度尋ねることはしなかった。
北部境界へ向かう途中で、時間は0になった。
医療画面の文が変わった。
最小損失切除ウィンドウ終了。
現在予測切除範囲 61~87パーセント。
リナは膜を透明に変えた。ダニエルと目が合ったが、二人とも何も言わなかった。
選ばなかった時間が、選択の結果になった。
回廊の境界には、壁の代わりに低い金属柱が並んでいた。柱の間を光が行き来し、人々の速度と質量を測った。
接近目的を入力してください。
ナミが言った。
「北部水路循環ポンプ流量0。共同修理を提案」
所有権主張の有無。
「主張しない」
部品回収要求の有無。
「事前合意なく回収しない」
生体物質拡散可能性。
サラは、ベクの試料とリナの検疫結果を除いた外部組織曝露情報を送った。
「中程度。接触防護を使用」
光の柱が一本消えた。
進入幅 1.2メートル。
培養槽は通れなかったが、リナは来ていなかった。人間六人とイアンが一列になって入った。
回廊の中には建物がなかった。床に埋め込まれた充電板と部品棚、浅い防水槽が機能ごとに配置されていた。機械たちは道を作らず、繰り返し通った跡が擦り減った場所に沿って動いていた。
最初は数十台いるように見えたが、実際に稼働しているのは二十九台だけだった。
車輪だけが動く機械。
センサー柱に取り付けられ、移動能力を失った機械。
一本の作業アームを三つの機体が順番に使う機械。
組立台には小さな車体が七台置かれていた。埃が積もらないよう覆いがかけられていたが、動いてはいなかった。
「あれ、新しい機械?」
イアンが尋ねた。
ナミが言った。
「体は新しい」
回廊の声が、複数の機械のスピーカーに分かれて答えた。
演算核なし。
起動不可。
予想待機時間 未定。
最後に新しい演算核が入ったのは26年前だった。
それ以降、回廊は壊れた機械のチップを移して、新しい車体を動かしてきた。一つの車体が目覚めるたび、それまでの機械が一つ戻ってこなくなった。
ジンは七台の車体のうち、最も小さいものを調べた。四つの車輪と低い位置にある一つの把持具、地面から採取したものを入れる分析槽だけだった。車体の側面には製造日の代わりに、必要な演算核の規格と待機順位が刻まれていた。
待機順位 4。
予想起動日 なし。
「チップがないって分かってたはずなのに、なんで七台も作ったんだ?」
回廊が答えた。
車体材料は生産可能。
演算核生産停止は一時的と予測。
予測更新失敗 9,471回。
ナミは一台目の車体の覆いを指で拭った。埃はほとんどなかった。動いている機械たちが、今も毎日拭いているということだった。
「待つことも作業に分類するのか?」
保存は作業です。
「誰を保存してる? まだ一度も目覚めたことがないのに」
回廊はすぐには答えなかった。近くの充電板で、古い軌道車が自分の電源を切って場所を空けた。電圧の低い小型整備機がそこへ入り、充電を始めた。
ミラは、第3都市にも同じ問いがあると思った。まだ生まれていない人のために水を残すのか、それとも今呼吸している人に全部使うのか。違いがあるとすれば、回廊はその問いを感情ではなく順番で留めていた。
組立台の記録から、最初の体は24年前、最後の体は8年前に作られたことが分かった。新しい体を一つ作るたび、回廊は演算核の生産が再開する可能性を計算し直した。最後の車体の後ろには「新規製作保留」と表示されていた。
「希望を捨てた時点まで記録してるんだな」
ジンが言った。
回廊が訂正した。
資源配分基準を変更した時点です。
イアンは小さな車体の把持具を持ち上げようとして、手を止めた。所有権を主張しないと約束したことを思い出したらしい。
「触ってもいい?」
検査目的の接触を許可。
イアンは把持具の先をそっと押した。関節は新品のようになめらかに曲がった。力を抜くと、何の意志もないまま元の位置に戻った。
「体はあるのに、誰もいないの?」
起動個体なし。
「じゃあ、この体を待ってる誰かもいない?」
未来個体は現在の照会に参加できません。
回廊はそれで回答を終えた。
循環ポンプは回廊中央の水路の下にあった。蓋は開いており、ポンプ軸は止まっていた。
故障原因:駆動コイル短絡。
交換部品:なし。
迂回可能性:62パーセント。
必要作業アーム:3。
使用可能作業アーム:1。
「残り二本はどこ?」
ミラが尋ねた。
回廊は部品棚の裏を示した。
運搬機K-41が横倒しになっていた。車体は中央で折れていたが、二本の作業アームと演算核は生きていた。
残存電力 18分。
回収予定部品 14個。
分配予定記憶束 37個。
「アームを先に外せば、ポンプを直せるな」
ジンが言った。
ミラはK-41の演算灯を見た。かすかに脈打っていた。
「この機械を修理したら?」
車体骨格 疲労限界超過。
再起動予想 2時間11分。
再固定後の予想運用時間 3~19時間。
「それでもポンプは直せるでしょ」
修理資源消費が後続運用価値を超過します。
K-41のスピーカーが直接入った。
分解を続行してください。
声は人間の話し方を真似ていなかった。音節と音節の間隔が一定だった。
ミラはK-41の整備記録を呼び出した。63年間で修理418回。車体交換二回。演算核は最初の起動時から同じものだった。最も長く繰り返した作業は、第3都市と回廊の間で犠牲電極を運ぶことだった。
最後の運行は6時間前だった。
積載量 86キログラム。
目的地 回廊中央倉庫。
帰還途中 地盤陥没。
救助要請 送信せず。
「どうして救助を呼ばなかったの?」
使用可能な救助資源なし。
「なかったんじゃなくて、呼んだらほかの作業が遅れるってことだったんでしょ?」
同一の意味です。
ミラは小さく悪態をついた。回廊は災害を隠してはいなかった。ただ、すべての文章を資源表に翻訳していた。そのため犠牲は、誰かの命令ではなかったかのように見えた。
「K-41を応急修理する選択肢は、誰が提案したの?」
人間の意思決定様式を予測するため生成。
「お前たちなら選ばないってことね」
現在の個体投票結果を表示します。
周囲の機械の表示灯が順番に点いた。分解賛成21、演算核保存4、応急修理1、棄権57。稼働中でも通信を送れない機械と、判断に必要なセンサーがない機械は棄権にまとめられていた。
「K-41の票は?」
分解賛成。
「演算核を受け取る空の体は投票できない」
起動前は選択不可。
「それじゃ、いつも生きてる側が、まだ生まれてない側のことを決めるじゃん」
現在利用可能な他の意思決定主体はありません。
ナミはイアンの肩をつかもうとして、手を引いた。
「私たちも同じだ。今、水を飲んでいる人間が次の世代の水を決める」
「それでも僕たちは、その子たちを人間だって言うだろ」
「言ったからって水が増えるわけじゃない」
イアンはK-41のかすかな演算灯を見つめた。
「言わなかったら、消しやすくなる」
今度は誰も訂正しなかった。
イアンが尋ねた。
「君、死ぬの?」
質問分類不可。
現在の作業目的終了。
部品機能 継続可能。
運行記憶 分配可能。
「記憶を移したら、君も移るの?」
同一性判断基準なし。
「君が決めるなら?」
K-41の演算灯が二度消えて、また点いた。
分配を要請します。
回廊の機械が三台近づいてきた。一台には作業アームを受け取れる固定具があり、一台はK-41と同じ地形センサーを使っていた。最後の一台は新しい車体だった。演算核がなく動けなかったが、空の記憶板が入っていた。
分配計画が表示された。
左作業アーム:循環ポンプ整備機R-8。
右作業アーム:外壁溶接機W-3。
地形記憶62パーセント:運送機T-12。
危険回避記録21パーセント:共有網。
未分類個人状態17パーセント:廃棄。
「なんで最後のは捨てるの?」
イアンが尋ねた。
後続作業への寄与度確認不可。
「それが君にしかない記憶だったら?」
後続作業への寄与度確認不可。
同じ答えだった。
ミラは未分類束の一覧を開いた。経路外で止まっていた時間、目的もなくセンサーを回した記録、配送後、空の車体のまま雨に打たれていた時間。生産には必要ないが、K-41にだけ起きた出来事だった。
「新しい車体に入れたら?」
演算核なし。実行不可。
「ほかの機械のチップを一部、分けられない?」
演算核の物理分割不可。
「第2再生工場でチップを一つ作ってる」
完成予想時間。
「あと13時間くらい。成功確率は41から68パーセント」
回廊は即座に計算した。
第3都市水分膜残存 27時間。
循環ポンプ停止時の実質残存 9時間44分。
新規チップ待機不可。
「アームだけ先に外して、演算核は待たせたら?」
K-41残存電力 13分。
演算核冷却停止後 損傷予想41分。
チップを生かすには冷却電力と新しい車体への接続が必要だった。そうすると、ポンプの作業アームを動かす電力が足りなかった。
回廊が選択肢を表示した。
1.計画通り分解。ポンプ復旧可能性62パーセント。演算核再使用。K-41未分類記憶廃棄。
2.K-41応急修理。ポンプ復旧可能性48パーセント。他機械部品9個消費。後続故障増加。
3.演算核保存。ポンプ復旧13時間以上遅延。第3都市水分膜崩壊可能性71パーセント。
ナミが言った。
「私たちは一番を要請する」
「K-41も一番を要請した」
サラが言った。
イアンはミラを見た。
「記憶の17パーセントは、どうして捨てなきゃいけないの?」
「あの機械たちが必要ないって決めたから」
「死ぬ人が、自分の記憶を捨てるって言ったら捨てる?」
「機械と人間は同じじゃない」
「何が違うの?」
ミラは答えを見つけられなかった。
K-41が言った。
比較不要。
ポンプ修理を開始してください。
残存電力 9分。
ミラはK-41の左作業アームの結合部を開いた。四本のボルトのうち一本が曲がっていた。切れば、アームの電力線も傷つく可能性があった。
ジンが車体を支え、ナミが絶縁膜を当てた。
「切断したら、もう戻れない」
ミラがK-41に言った。
確認。
「最後の記憶17パーセントは?」
廃棄。
イアンが言った。
「僕が保管したら?」
ミラは首を振った。
「アーカイブに上げたら、また誰の記憶か分からないまま使われる」
回廊が答えた。
外部保管を許可。
実行個体の同一性主張は禁止。
「記憶は渡せるけど、それをK-41って呼んじゃいけないってこと?」
正確。
イアンは自分の手首の保存領域を確認した。アーカイブ接続ではなく、独立医療記録用の4テラバイトがあった。未分類記憶は0.8テラバイトだった。
「僕が持っててもいい?」
K-41が答えた。
許可。
所有権移転。
「僕が消しても?」
許可。
「誰にも見せなくても?」
許可。
記憶束がイアンの医療保存領域にコピーされた。子どもは中身を開かなかった。
ミラは曲がったボルトを切った。
作業アームが外れた。
K-41の車体のバランスが崩れた。演算灯が一度消えた。
右アームも外した。
残存電力 3分。
外したアームをR-8につなぐと、関節が反対方向に曲がった。K-41は貨物固定用で外側への回転域が広く、R-8は狭いポンプ室で内側へ折りたためるよう作られていた。
互換規格は同じでも、動きの文法が違っていた。
ジンが機械学習の補正時間を確認した。
「自動補正に46分。待てない」
ミラはK-41の作業アーム運動記憶を検索した。地形記憶にも危険回避記録にも含まれていない束だった。
「アームを持っていくのに、アームの使い方は捨てたの?」
回廊が答えた。
運動モデルは元演算核に従属。
「じゃあ手動で反転させる」
彼女はアームの角度センサーを二つ差し替え、制御器の正負を反転させた。最初の試験では、把持具が閉じるべきときに開いた。二回目は停止角を越え、自分のケーブルを押しつぶしかけた。
残存電力 2分。
K-41が最後に短い補正値を送信した。
関節2 限界値 マイナス31。
ミラが値を入れると、アームは正確に折れた。
「自分の腕を外したあとまで、使い方を教えるんだな」
ジンが言った。
K-41は答えなかった。演算灯があまりにも遅くなり、質問を処理しているのかさえ分からなかった。
回廊は地形記憶と危険回避記録を別の機械へコピーした。T-12は初めて通るはずの道をすでに知っているかのように、車輪の向きを修正した。
K-41のスピーカーが言った。
分配完了。
現在の作業なし。
演算灯が消えた。
誰もそれを死だとは宣言しなかった。
回廊は空になった車体を部品棚の方へ運んだ。
R-8とW-3が新しい作業アームをつけ、循環ポンプの下へ降りた。ミラは駆動コイルの焼けた部分を切り、迂回線を作った。三本の作業アームが軸を持ち上げた。
一本は人間が操作し、二本は機械が操作した。
軸を4ミリメートル動かすと、コイルの間に溶着した金属片が見えた。第3都市の水分膜から剥がれた犠牲電極の一部だった。
「私たちが入れた電極が、ここまで来た」
ナミが言った。
都市を救うために入れた金属が、ポンプを止めていた。
ミラは金属片を把持具で抜いた。コイルの絶縁はすでに焼けていた。迂回線に電流を流すと、最初の線が溶けた。
予備線は一本しかなかった。
「再起動しても、いきなり最大出力にしないで」
回廊はポンプの起動曲線を提示した。
最低流量時 第3都市貯水量14時間。
最大流量時 コイル再短絡確率63パーセント。
ナミが言った。
「50パーセントから始める」
マテオが通信で反対した。
「都市は27時間を約束されてた」
「約束じゃない。予測だった」
「乾燥棟の空気が先に減る」
「最大で回したら全部止まるかもしれない」
回廊は人間の議論を待たなかった。事前合意されていた第3都市最低供給量43パーセントでポンプを起動した。
水が動いた。
第3都市流入量 毎時182リットル。
貯水量予想 17時間。
共同体が求めた量より少なかったが、ポンプは回った。
通信画面で第3都市の配給表が即座に変わった。
医療棟 維持。
乳幼児棟 80パーセント。
共同洗浄 中止。
食用培養槽2基 乾式移行。
変異皮膚水分供給 個別再審査。
最後の一文で会議が止まった。第3都市には、空気中の水分だけでは耐えられない皮膚や外部呼吸膜を持つ人が五十二人いた。水を減らすことは不便を分配することではなく、どの体を先に危険へ入れるか決めることだった。
マテオが言った。
「非変異住民の洗浄水から先に切れ。あっちは洗わなくても死なない」
別の声が割り込んだ。
「乾燥棟の汚染が増えれば感染性皮膚炎が広がる。三日後のコストがもっと大きくなる」
「俺たちに三日あるのか?」
ナミはポンプの横で、両拳を膝についたまま画面を見下ろした。
「個人の身体分類で切るな。機能別の最低量を計算し直せ」
「計算してる間にも水は出ていく」
「間違って切れば、人がいなくなる」
回廊は第3都市の議論を聞き、新しい配分案を提示した。医療棟の水のうち、手術準備分310リットルを保留解除すれば、外部呼吸膜を持つ五十二人に5時間20分を追加できた。
ダニエルの接続表示が点いた。
リナのために確保されていた水だった。
「手術ウィンドウが閉じても、再評価までは保留しないと」
彼が言った。
ナミが尋ねた。
「患者は手術を拒否してるのに?」
「決定が変わるかもしれない」
リナの声が医療棟から直接入った。
「変わらない」
「リナ、今これはお前の選択だけの――」
「私の水を分けて」
ダニエルが息を吸った。
「お前の水じゃない。手術資源だ」
「じゃあ、手術しない患者のところに置いたままにしないで」
マテオはリナの発言を正式な放棄として記録するか尋ねた。リナは同意した。サラが医療者確認欄に署名した。ダニエルの保護者確認欄は空白だったが、リナの意思決定能力が認められてからは必須ではなかった。
手術準備用水310リットルが、外部呼吸膜の維持へ回された。
五十二人の時間が延びた。
リナが戻れる道の一つは、さらに狭くなった。
ミラは迂回線の温度を手で感じ取れず、赤外線計を当てた。
「六時間ごとに冷やさないと」
回廊が計算した。
必要人間作業 なし。
R-8が迂回線に冷却水をかけることができた。ただし、その水は第3都市へ向かう水から毎時4リットルを取る。
ナミが承認した。
水分膜貯水量予想 16時間12分。
修理は時間を稼ぎ、時間を減らした。
回廊を出る前、イアンは小さな車体七台をもう一度見た。
「チップができたら、どの子が最初に動くの?」
公共寄与予測が最も高い車体。
「誰が決める?」
現在稼働個体投票と資源モデルの交差結果。
「新しい車体は決められない?」
起動前は選択不可。
「動く前は、自分の体も選べないんだね」
回廊は答えなかった。
イアンは四番目の車体の待機札を指した。
「工場でチップが一つできたら、この子にあげる?」
いいえ。
「なんで?」
第3都市呼吸循環と第7都市空気浄化の方が、より高い生存寄与を持ちます。
「機械たちが投票しても?」
予想投票結果 同一。
「そのチップが、君たちを生かす最後のチップかもしれないのに」
回廊の返答は遅れなかった。
現在の人間居住地が崩壊した場合、回廊の整備供給も終了します。
共同生存への寄与が個体増加より高い。
ナミが苦く笑った。
「私たちを生かせば、自分たちが少し長く死ねるってわけか」
整備網持続時間 3.1年増加予想。
「ありがとうって言えばいいのか?」
感謝応答は作業に必要ありません。
ミラは組立台の下に整列した空の充電線を見た。回廊は人間に恨みを請求しなかった。その代わり、人間がいなくなれば自分たちが何年早く終わるのかを正確に計算していた。許しよりも耐えがたい方法だった。
第2再生工場から試験工程の更新が入った。
完成まで 11時間48分。
工程汚染 上昇。
条件付き合格可能性 37~61パーセント。
チップが成功しても、第3都市、第7都市、回廊のすべてが必要としていた。
回廊の個体記録が開いた。
最大稼働個体 247。
現在稼働個体 83。
完全作業可能 29。
再生可能演算核 12。
現在の減少率における独立運用終了中央値 22.8年。
イアンが尋ねた。
「そのあとは、みんな消えるの?」
確率分布を表示します。
一部固定機能持続 31~46年。
移動個体終了 18~27年。
記憶再分配網終了 21~24年。
「怖くないの?」
質問分類不可。
「終わるって分かってても?」
回廊はしばらく計算した。
終了予測は現在の作業優先順位を変更します。
感情状態データなし。
第3都市へ戻る途中、リナの医療画面が更新された。
現在予測独立呼吸成功 21パーセント。
死亡・中断 19パーセント。
最小損失切除ウィンドウは、もう開かなかった。
ダニエルは画面を閉じた。リナに見せないためではなく、もう代わりに見ないと決めたかのように、自分側の画面だけを消した。
リナは不透明な膜を半分だけ透明にした。
何も言わなかった。
イアンの手首には、K-41が目的もなく止まっていた時間が保存されていた。
その夜、子どもが眠ったあと、一つのファイルがひとりでに開いた。
K-41の記憶ではなかった。
別の機械十二台が、同じ形式で残した未分類記録だった。
すべて、作業命令もないまま北の空をセンサーで見つめていた時間だった。
どの記録にも、同じ弱い電波が入っていた。
地球軌道から17日ごとに繰り返される信号だった。