壁を越える陽
今日、私はボタンを一つ拾った

エピソード 1 / 3

紙には匂いがある。

きれいな紙には何の匂いもしないように思えるが、鼻を近づけると、薄い糊と乾いた埃が混じった匂いがする。古い書類綴じから取り出した紙には、そこに人の手の脂と湿気の匂いまで加わる。

私の前に置かれていたのは、新しい紙だった。

右上には「矯正本部」という文字が灰色で印刷されていた。紙の下部には作成者の収容番号と氏名を書く欄があり、その下には「仮釈放審査参考資料」という題名が太字で印刷されていた。

私はまず名前を書いた。

ハン・ジェホ。

ボールペンの先が、「ホ」の最後の線で少し滑った。右手に力が入らないわけではなかった。机の高さが車椅子に合っていなかった。肘を机の上に置くと肩が上がり、手首を曲げなければ字が書けなかった。

「不便ですか?」

向かいに座った矯正委員が尋ねた。

彼の名前はソ・ギヒョンだった。胸についた名札を二度確認したので覚えていた。四十代半ばくらいに見え、髪は短く、眼鏡の縁は細かった。書類をめくるたびに親指を舐める癖があった。

「大丈夫です」

私は肩を少し下げ、それからまた上げた。

大丈夫ではなかったが、机を替えてくれと言うほどではなかった。刑務所で「大丈夫です」という言葉は状態を説明する言葉ではない。これ以上の対応は求めません、という意味に近かった。

ソ・ギヒョンは、私が書いた名前をしばらく見下ろした。

「収容番号も書いてください」

私は名前の上の欄へボールペンを移した。

入ってきたばかりの頃は、収容番号をよく間違えた。病院では患者番号で呼ばれ、裁判では被告人ハン・ジェホであり、会社ではハン部長、あるいはハンPMだった。家では父親で、スジンにとっては夫だった。人を呼ぶ言葉は場所によって変わったが、それらが同じ人間を指しているという事実を、私は長いあいだ疑わなかった。

今では収容番号を間違えない。

4271。

四桁の数字を書くほうが、名前を書くより早かった。

私の手が止まると、ソ・ギヒョンは紙の下のほうを指した。

「質問は三つです。すべて書く必要はありません。一つ選んで記述しても構いません」

質問はすでに読んでいた。

一つ目、犯行当時の判断と行動を、現在の観点から評価してください。

二つ目、被害回復と社会復帰のためにどのような努力をしてきたか記述してください。

三つ目、収監生活を通じて発見した人生の新たな意味と、今後の実践計画を記述してください。

三つ目の文章がいちばん長かった。

人生の新たな意味。

私はその言葉を心の中で読んだ。「新たな」という言葉は、それまでのものが古くなったという意味だった。「発見した」という言葉は、もともとどこかに置かれていたという意味だった。人生の意味というものは、森に落ちた財布や倉庫の隅の在庫品のように、探しさえすれば見つかるものらしかった。

「審査委員は、文章が上手いかどうかを評価するわけではありません」

ソ・ギヒョンが言った。

「率直に書いてください」

私はその言葉を聞きながら、紙の右上にある「矯正本部」の文字を見た。

率直に書いてください。

会社でも似たような言葉を聞いた。事故原因調査会議の初日、法務チーム長が会議室の扉を閉めて言った。

ありのままにお話しください。

そのあと彼はホワイトボードに「設計」「施工」「管理」「不可抗力」と書いた。そして出席者たちの言葉を四つの項目の中へ入れた。どこにも入らない言葉は消した。

人は率直に話せと言ったあとで、率直さを入れる箱を先に作る。

私は左手でボールペンのキャップを触った。先端に歯形があった。私が噛んだものではない。教育室で共同使用するボールペンだった。誰かが考えが浮かばないときに噛んだのか、怒りをこらえるために噛んだのか、ただ口に何かを当てる癖があったのかもしれない。

「作成時間は一時間です」

ソ・ギヒョンが言った。

「書き終えられなくても、医療棟へ持ち帰って続けて構いません。来週の相談で下書きを見ます」

隣の席では、すでに誰かが文章を書いていた。

紙を擦る音が一定だった。二つ向こうに座った男は前のめりになり、紙が破れそうなほどボールペンを押しつけていた。反対側では、ある人が一行目を書いては消すことを繰り返していた。消しゴムがないので、ボールペンで真っ黒に塗りつぶしていた。

私は一つ目の質問をもう一度読んだ。

犯行当時の判断と行動を、現在の観点から評価してください。

「犯行当時」という言葉が喉に引っかかった。

事故当時ではなかった。

作業当時でもなかった。

崩壊当時でもなかった。

犯行当時。

私はその言葉は間違っていると思った。すぐに、裁判所ですでに確定した言葉だとも思った。間違っていると思うことと、確定しているという事実は同時に存在した。

私はボールペンを紙につけた。

私は、

二文字を書いた。

そのあと、何も書けなかった。

私は当時、現場総括責任者として。

そう続けることはできた。

安全より工事日程を優先し。

危険の可能性を十分に検討しないまま。

作業を承認し。

二人の尊い命を。

文章はすでに知っていた。判決文と反省文と会社の謝罪文で何度も読んだ。言葉の順番を少し変えれば完成した。

私は当時、現場総括責任者として安全より工事日程を優先し、危険の可能性を十分に検討しないまま作業を承認したことで、取り返しのつかない結果を招きました。

正確な文章だった。

しかし、その文章の中に、あの日はなかった。

あの日の空気は湿っていた。雨は降っていなかったが、コンクリートの床から水の匂いが上がってきた。移動式発電機の音は途切れそうになりながら続いていた。ヘルメットの内側を汗が流れ、携帯電話は十分おきに鳴った。

その日の携帯電話には、妻からのメッセージも届いていた。

ユリのおもちゃ、買ってくるの忘れないで。

私は読んだが返事をしなかった。

午後の会議が終わったら返そうと思っていた。会議が終われば現場所長と電話をし、そのあと施工会社の報告書を確認し、その次に本部長へ進捗率を報告しなければならなかった。

ユリのおもちゃは、そのあとだった。

世界はいつも、次の順番が当然あるかのように並べられていた。

「ハン・ジェホさん」

ソ・ギヒョンの声に、私は顔を上げた。

「痛みがありますか?」

ボールペンを握る手に力が入っていた。人差し指の関節が白くなっていた。

「ありません」

「必要なら医療棟へ戻っても構いません」

「大丈夫です」

今日三度目の「大丈夫です」だった。

私は紙へ視線を戻した。「私は」のあとに、読点を打ったようなボールペンの跡が一つ残っていた。インクがにじみ、小さな黒い点になっていた。

その点を見ているうちに、崩壊直前の柱を思い出した。

柱の表面には髪の毛より細い線があった。亀裂と呼べるかどうか曖昧なほどだった。私は指でその線をこすった。埃がついた。現場所長は、表面が乾燥する過程でできた痕跡である可能性が高いと言った。

安全点検担当者は電話で言った。

「断言はできません。ただ、接合部の変位が基準値に近づいています」

私は尋ねた。

「近づいているんですか、それとも超えているんですか?」

「超えてはいません」

「使用中止基準には該当しない、ということですね?」

少し沈黙があった。

「数値上はそうです。ただし、夜間の荷重作業は延期したほうがいいと思います」

私が欲しかった答えは前の文章だった。彼が強調したのは後ろの文章だった。

私は前の文章を記録した。

使用中止基準に該当せず。

後ろの文章は議事録に残さなかった。

それは省略だったのか。

要約だったのか。

あのとき私は、要約だと思った。

私の手は紙の上で動かなかった。

一時間が終わったとき、私が書いたのは名前と収容番号、そして「私は」だけだった。

ソ・ギヒョンは紙を回収しなかった。

「持って帰ってください」

彼が言った。

「最初はみんな難しいものです」

みんな。

その言葉は慰めのように聞こえたが、実際には分類だった。私は、文章を書けない収容者たちの中に入れられた。

「次の相談までには、一段落くらいは書いてください」

彼はボールペンを回収しようとして、私がまだ握っているのを見て手を止めた。

「それも持っていって構いません」

「共用品ではないんですか?」

「次回返してください」

私はボールペンと紙を膝の上の書類板に置いた。紙が滑らないよう左手で押さえた。

ナ・ドユン刑務官が教育室の外で待っていた。

彼は私の車椅子のハンドルを握らなかった。私は電動車椅子を使っていなかった。医療棟の廊下の一部には段差があり、充電管理も面倒だった。手で車輪を回すほうが自由だと思っていたが、肩が痛む日には、その選択が自由なのか意地なのか分からなかった。

「ご自分で行きますか?」

ナ・ドユンが尋ねた。

「はい」

「スロープだけ支えます」

私は車輪のリムを押した。

教育棟と医療収容棟の間には短い廊下があった。一般収容棟へ続く道と重なる区間では、鉄扉を三回通らなければならなかった。扉が開くたび、金属同士がぶつかる音がした。

最初の鉄扉の前で、私たちは待った。

反対側から収容者たちが作業場へ移動していた。灰色の収容服が列を作っていた。何人かは私の車椅子をちらりと見たが、ほとんどは見なかった。

収監されたばかりの頃、人の視線を確認するのが癖だった。

誰が私の脚を見るのか。

誰が私の顔を知っているのか。

誰がニュースを見たのか。

時間がたつと視線は減った。正確には、私が数えるのをやめた。

扉が開いた。

スロープでナ・ドユンが車椅子の後ろを支えた。

「押します」

「できます」

「分かっています。勾配の規定です」

彼は助けるとは言わなかった。規定だからだと言った。

そういう言い方は楽だった。

助けには、ときどき表情がついていた。かわいそうだという顔、善いことをしたという顔、私が感謝すべきだという顔。規定には表情がなかった。

医療棟に着いたとき、昼食の配膳は終わりかけていた。

部屋に入ると、イ・ジョンホがベッドに座って聖書を読んでいた。聖書には何度もテープで補修した跡があった。表紙の金色の文字はほとんど剥がれ、背は片側に傾いていた。

「ちゃんと書けたか?」

ジョンホが尋ねた。

「いいえ」

「一文字も?」

「二文字書きました」

「二文字なら始めたんだな」

私は書類板をベッド脇の机に置いた。

「何と書いたかは聞かないんですか?」

「言いたければ言うだろう」

そう言った直後、ジョンホはすぐに尋ねた。

「で、何と書いた?」

私は答えなかった。

彼は笑った。前歯が一本なかった。

「俺は最初の反省文に十二枚書いたよ」

「覚えているんですか?」

「もちろん。人を殺しておいて、自分がどれだけかわいそうな人間か十二枚も書いた」

ジョンホは聖書に挟んでいた紙切れを整えた。

「父親は酒飲みで、母親には殴られ、俺は勉強もできず、妻は口を開けば人を見下した。十二枚全部読んだら、俺が一人殺したことが不思議じゃなくなるくらいだった」

「今は違うように考えますか?」

「今なら十三枚書ける」

「一枚増えましたね」

「最後の一枚に、俺が殺したって書くんだ」

私は車椅子をベッドのほうへ向けた。

「前の十二枚はそのままで?」

「なかったことにはならないからな」

ジョンホは聖書を閉じた。

「人がなぜそうしたのかを話すことと、だからやっていないと言うことは別の話だ」

「私に言っているんですか?」

「自分の話をしたんだ」

「私を見て言ったじゃないですか」

「目は前についてるんだから、お前を見るだろう。壁を見て話せっていうのか?」

ジョンホの話し方には、人を教えたがる人特有の態度があった。自分は長く生き、長く閉じ込められてきたから、人の心をよく知っていると思っていた。

私はそこが嫌いだった。

同じ部屋を使い始めて四か月になるが、彼の声を聞くだけで疲れる日もあった。彼は毎朝祈り、私が眠れないと聖書の一節を読んだ。頼んでもいないのに、神は私を見捨てていないと言った。

神が私を見捨てていないという言葉は、神がパク・ジンスとオ・グァンチョルを見捨てたという意味のように聞こえた。

私は一度、それを口にしたことがある。

ジョンホは三日間、私に話しかけなかった。

昼食のトレーはぬるかった。ご飯、味噌汁、練り物の炒め物、キムチ。私はベッド脇の移動式テーブルを手前に引いた。上体を前へ倒すたび、腰から下の感覚のない身体が少し遅れてついてきた。

事故のあと、医師は私に感覚レベルを説明した。

へそから下。

その言葉は、地図に線を引くように簡単だった。線の上にも私はいて、線の下にも私の身体はあった。しかし下側の身体は命令しても動かず、痛んでも私は感じることができなかった。

感じないからといって、傷まないわけではなかった。

褥瘡は痛みなしにできた。膀胱は知らせずに満ちた。脚は勝手に痙攣した。私の身体は私に知らせず状態を変えた。

ジョンホが汁を飲みながら咳をした。

収容服の上のボタンが一つ、ゆるくぶら下がっていた。糸が半分ほどほどけていた。

「それ、落ちますよ」

私が言った。

ジョンホは胸元を見下ろした。

「あとで縫わないとな」

「今、看護師に言ったらどうです?」

「ボタン一つで看護師を呼ぶのか?」

「落ちてから探すよりいいでしょう」

「お前は全部、落ちる前に止められたのか?」

私はスプーンを置いた。

ジョンホも自分が何を言ったか分かったようだった。しかし謝らなかった。謝る代わりにキムチをつまんだ。

「言い方がそうなっただけだ」

「そういうことは言わなくていいです」

「分かった」

そのあとは、食事が終わるまで互いに何も言わなかった。

トレーを返したあと、私はベッドへ移った。車椅子からベッドへ移るときは、両手で身体を持ち上げなければならない。左手をマットレスにつき、右手で車椅子の肘掛けを押す。尻を持ち上げて横へずらすあいだ、脚は床に置いた荷物のようについてきた。

今日は一度ではうまくいかなかった。

身体が途中で引っかかった。右の太ももが車椅子の車輪に当たった。

ジョンホがベッドから立ち上がろうとした。

「そのままでいてください」

私は言った。

「手伝おうと思って」

「手伝いになりません」

言葉が早く出すぎた。

ジョンホはまた座った。

私は腕に力を入れた。二度目には身体がベッドの上に移った。脚を手で一本ずつ持ち上げてベッドに置いた。右足首が外側に曲がっていた。手で戻した。

私の足は冷たかった。

手のひらで触らなければ分からなかっただろう。

私は横になって天井を見た。

天井には長く続く亀裂が一本あった。ペンキが割れているだけで、構造上の亀裂ではなかった。最初にこの部屋へ来たとき、施設担当者がそう説明した。

構造的な問題はありません。

その言葉を聞いたとき、私は笑いそうになった。

「構造的」という言葉はどこにでもあった。

構造的原因。

構造的不正。

構造的圧力。

構造的責任。

人が構造を語ると個人は小さくなった。個人を語ると構造は消えた。

法廷で検察官は言った。

「被告人は最終作業承認権限を持つ現場責任者でした」

弁護人は言った。

「実質的な意思決定は、本社経営陣による工期短縮の指示によって制限されていました」

どちらも事実だった。

私は最終作業承認権者だった。

私は工期短縮の圧力を受けていた。

どちらの文章も、もう一方を消せなかった。

しかし裁判は文章を競わせた。

より強い文章が判決文に残った。

午後二時を過ぎると、鉄格子の間から日差しが入ってきた。

光は床に小さな四角形を作った。医療棟の窓は南西を向いているので、日差しが入るのは午後だけだった。最初は季節ごとに光の位置が変わるのが不思議だった。やがて、その位置で時刻を推測するようになった。

光の右端が三枚目の床タイルのひびを越えると、二時半だった。

ベッドの脚に届けば三時十分。

壁の下まで行けば四時が近かった。

時計がなくても時間は過ぎた。

私は机の上の紙を見た。

遠くからは「私は」という文字が見えなかった。紙はまた白紙のように見えた。

ジョンホが昼寝をしながら寝返りを打った。

小さな音がした。

カチッ。

硬いものが床に当たり、そのあと二度転がった。

ジョンホの収容服からボタンが落ちていた。

ボタンはベッドの下には入らず、二つのベッドの間で止まった。灰色のプラスチックのボタンだった。穴が四つあり、片側には白い糸がついていた。

ジョンホが身体を起こした。

「落ちたな」

「だから言ったでしょう」

「そうだな」

彼はベッドの端へ身体を移した。腰を曲げようとしたが、手は膝より下まで届かなかった。ジョンホは昔、腰の手術を受けており、最近は股関節の痛みもひどかった。

右手を伸ばした。

指先とボタンの間には、手のひら一つ分ほどの距離が残った。

「もう少しこっちへ来ればな」

ジョンホがつぶやいた。

「落ちますよ」

「落ちない」

彼はさらに身体を曲げた。上体が前へ傾いた。

私はベッドの柵をつかんだ。

「やめてください」

「もう少しだ」

「ジョンホさん」

彼は聞かなかった。

私は車椅子を見た。ベッドの横に置いてあった。車椅子の後ろには、床のものを拾うための長いリーチャーが掛けてあった。看護師が、落としたものを拾うときに使えと渡してくれたものだった。

ベッドからまた車椅子へ移るのは面倒だった。

呼び出しボタンを押せば刑務官か看護師が来る。しかしボタン一つのために呼べば時間がかかるだろう。次の配膳まで待つこともできた。

そのボタンがなくてもジョンホの収容服が大きく開くことはなかった。上下のボタンは残っていた。

私はしばらくボタンを見た。

ジョンホもボタンを見た。

二人とも近づけない物が、二人の間にあった。

妙な場面だと思った。

一人は歩けなかった。

もう一人は腰を曲げられなかった。

ボタンは何も要求せず床にあった。

「そのままにしておきましょう」

私が言った。

「掃除のときに持っていかれる」

「新しいボタンをもらえばいいでしょう」

「あれが新しいボタンなんだ」

「ボタンに新しいも古いもありますか?」

「あれは穴も四つ全部ちゃんとしてるし、色も褪せてない」

ジョンホはまた手を伸ばした。

「人を呼ぶしかないな」

「ボタン一つのために?」

「ボタン一つでも、自分じゃ拾えないからな」

声が少し小さくなった。

私はまた車椅子を見た。

事故直後、病院でリハビリテーション科の医師が「自立生活」について説明した。

一人でベッドから車椅子へ移ること。

一人で排尿管理をすること。

一人で床の物を拾うこと。

一人で段差を越えること。

医師は「自立」という言葉を何度も使った。

私はその言葉が嫌いだった。

事故の前も、私は一人で生きていたわけではない。スジンが食事を作り、スタッフが予定を組み、運転手が空港へ送ってくれた。現場では作業員たちが私の指示した仕事をした。

その頃は、私は自立した人間と呼ばれていた。

今はボタン一つを拾うためにリーチャーが必要だった。

私は腕で身体を起こした。

「何するんだ?」

ジョンホが尋ねた。

「どいてください」

私はベッドから車椅子へ移った。今度は一度で身体が動いた。足をフットレストに載せ、ブレーキを外した。

車輪を二度押すと、ボタンの前に着いた。

リーチャーを握った。

ハンドルを握ると先端が閉じた。ボタンを正確につかむのは思ったより難しかった。一度目は白い糸だけをつかんだ。持ち上げると糸がほどけ、ボタンはまた落ちた。

ジョンホが言った。

「ゆっくりやれ」

「言われなくても分かっています」

二度目はボタンの縁をつかんだ。持ち上げる途中で抜け、ベッドの脚のほうへ転がった。

「人の性格を試すな、このボタン」

ジョンホが言った。

私は答えなかった。

車椅子を少し回した。

三度目は、リーチャーの先をボタンの穴の中へ入れた。ハンドルを握ると、ボタンが斜めに引っかかった。ゆっくり持ち上げた。

ボタンは落ちなかった。

私はそれをジョンホのベッドの上に置いた。

ジョンホはボタンを取り、手のひらに載せた。

「ありがとう」

「看護師が来たら縫ってもらってください」

「自分で縫える」

「針は持ち込めません」

「医療棟にはあるだろう」

「だから看護師に言ってください」

ジョンホはボタンを枕の横に置いた。

「分かった」

私は車椅子を回した。

机の上の紙は半分ほど日差しの中にあった。光の中では紙がいっそう白く見え、その上の黒い文字も遠くから見えた。

私は。

私は机の前へ行った。

ボールペンを持った。

一つ目の質問の下に書こうとしてやめた。二つ目でもなかった。三つ目の質問の下の空欄にボールペンを置いた。

収監生活を通じて発見した人生の新たな意味と、今後の実践計画を記述してください。

人生の意味を発見できなかった、と書くことはできた。

人生には意味がない、と書くこともできた。

しかしそれも、あまりに大きな文章だった。

私は人生全体を見たことがなかった。自分の人生も終わっていないし、パク・ジンスとオ・グァンチョルの人生についても、知っていることより知らないことのほうが多かった。私が「意味がない」と宣言できるものは、そう多くなかった。

事故には意味がなかった。

そう書こうとして、やめた。

事故に意味がないという言葉は、二人の死に意味がなかったと言っているようにも見える。私は彼らの死に意味を与える権利も、意味がなかったと結論づける権利も持っていなかった。

私はボールペンを置いた。

「また書けないのか?」

ジョンホが尋ねた。

私はさっきの床を見た。

ボタンはなかった。

その場所に、鉄格子を通り抜けた光がかかっていた。

私はもう一度ボールペンを持った。

そして書いた。

今日、私はボタンを一つ拾った。

文章は短かった。

新しい意味もなかった。

教訓もなかった。

なぜボタンを拾ったのかは書かなかった。ジョンホを助けるためだったのか、自分がまだ役に立つ人間だと確かめたかったのか、ボタンをそのままにしておくことが気になったからなのか、自分でも分からなかった。

ただ、ボタンは床にあり、私はそれを拾った。

私が覚えている限り、それは今日起きたことだった。

私は文末に句点を打った。

ジョンホが尋ねた。

「何と書いた?」

「一文です」

「読んでみろ」

「嫌です」

「いい文章か?」

私は紙を一度読んだ。

今日、私はボタンを一つ拾った。

「分かりません」

「じゃあ、正直な文章だな」

「どうして正直だと分かるんです?」

ジョンホは枕の横のボタンを持ち上げた。

「あれがあるからだ」

私は答えなかった。

光は紙の上を通り、私の手の甲に届いた。手の甲の血管と古い注射針の跡がはっきり見えた。しばらくすれば、その光も私の手から外れるだろう。

私は紙を折らなかった。

机の上にそのまま置いた。

その日、私が書いたのは一文だった。

その文章が私を説明するとは思わなかった。

私を変えるとも思わなかった。

審査委員が気に入るとも思えなかった。

ただ、白紙はもう白紙ではなかった。

そしてジョンホのボタンは枕の横に置かれていた。