エピソード 2 / 10
会社を辞めて最初の一年は、思ったより良かった。
朝、目を開けた瞬間に時計を見なくてもいい。
子どもが朝ごはんをこぼしても、自分で靴を履くと言い張ったかと思えば急に別のおもちゃを取り出しても、以前のように気持ちが焦らなかった。
(ソユン):「いいよ。ゆっくりやろう。」
子どもを保育園に送ったあとは、家に戻って溜まった家事を片づけた。
それでも午後になれば、自分で迎えに行った。
シッターが送ってくれる写真でしか見られなかった娘の午後を、今は自分の目で見ることができた。
公園で一時間遊ぶ日もあった。
平日の午後にキッズカフェへ行くこともあった。
天気が良ければ、翌日ふと思い立って動物園へ行ったりもした。
会社員だった頃は、やりたくてもできなかったことだ。
ソユンはかなり満足していた。
辞めて正解だったのかも。
そんなふうに思うこともあった。
二年目になると、少し違うことを考えるようになった。
子どもも保育園にすっかり慣れ、昼間、ソユンには数時間の余裕ができた。
退職した頃に思った言葉が浮かんだ。
これから何をやってみよう。
ソユンはノートパソコンを開いた。
「ブランクのある女性 再就職」
検索して、閉じた。
今度は、
「家でできる仕事」
オンラインショップ。
ブログ。
資格。
在宅勤務。
動画編集。
ある日、長いこと検索した末にオンライン講座を一つカートに入れた。
決済金額、二十八万ウォン。
指が決済ボタンの前で止まった。
これを学んだところで、本当に私にできるのかな。
会社員だった頃は、仕事に必要なら会社のお金で研修を受けることもあった。
自己研鑽に月十数万ウォン使うことも、別に不思議ではなかった。
けれど給料のない人になってからは違った。
結局、カートから削除した。
もう少し調べてからにしよう。
そう思った。
そして気づけば、また一年が過ぎた。
退職して三年。
娘は五歳になった。
朝、幼稚園へ送って帰れば、皿を洗う。
洗濯機を回す。
掃除機をかける。
買い物をする。
冷蔵庫を整理する。
夕飯のおかずを作る。
そうしているうちに、もうお迎えの時間だった。
夫も最初から家事をしなかったわけではない。
共働きの頃はゴミを捨て、週末には掃除機もかけていた。
けれどソユンが家にいるようになってから、少しずつ変わった。
(夫):「俺がやるよ。」
だった言葉が、
(夫):「あとでやっといて。」
に変わるまで、それほど時間はかからなかった。
ソユンも大きな問題にはしなかった。
自分は家にいる。
夫は毎朝仕事へ行く。
それが自然なことのように思えた。
子どもをもう少しいい環境で育てたいと、ソウルの中でも少し評判のいい地域へ引っ越したのもその頃だった。
代わりに家は狭くした。
そしてローンは増えた。
夫の給料は少なくなかった。
それなのに、なぜかいつも余裕がなかった。
住宅ローンの利息。
管理費。
保険。
食費。
冠婚葬祭。
一か月が始まる前から、出ていくお金の行き先はほとんど決まっていた。
ある日の帰り道、娘が突然足を止めた。
幼稚園の隣の商店街にある絵画教室だった。
ガラス越しに、折り紙や絵、色とりどりの粘土作品が並んでいた。
娘は長いこと見つめた。
(子ども):「ママ、これ、子どもたちが作ったの?」
(ソユン):「うん。そうみたい。」
(子ども):「わあ、きれい。」
娘はガラスに顔を近づけた。
帰ろうと言っても、しばらく動かなかった。
その夜、ソユンは絵画教室の月謝を調べた。
週二回。
一か月十八万ウォン。
通わせてあげたかった。
家でも一番好きなのは絵を描くことだった。
言葉も同年代の子より早かった。
幼稚園の先生もよく言った。
(先生):「語彙がとても豊かですね。お話しするのが大好きみたいです。」
そんな話を聞くたび、ソユンは思った。
余裕があれば、英語も楽しくやらせてあげたい。
絵も。
英語も。
娘が好きなことを、いくつか経験させてあげたい。
でも絵画教室の十八万ウォンに英語まで加えると、あっという間に月数十万ウォンになる。
ソユンは電卓を叩き、スマホを置いた。
五歳なのに、何が習い事よ。
今は遊ぶのが一番でしょ。
それは正しい言葉だった。
ソユンも、小さな子どもにいくつもの習い事を詰め込みたい人ではなかった。
それでも、少し引っかかった。
本当に「やらせたくない」のか。
それとも「やらせられない」のか。
その二つは違った。
翌日。
娘を幼稚園へ送り、家に戻った。
また掃除機をかけ、洗濯物を干し、冷蔵庫を開けて夕飯を確認する。
テンジャンチゲ。
卵焼き。
昨日の残りのプルコギ。
今日の一日もだいたい見えた。
ソユンは買い物かごを持って外に出た。
スーパーへ向かう途中、小さなロト売り場があった。
普段なら、そのまま通り過ぎる場所だった。
店の前には今週の予想当選金額が貼られていた。
ソユンは少しだけ眺め、ふっと笑った。
(ソユン):「あれでも当たればいいのに。」
もちろん、当たるはずがない。
それでも今日は、なぜかそのまま通り過ぎる気になれなかった。
ソユンは店に入った。
(ソユン):「自動で一枚ください。」
五千ウォンを渡した。
ロト券を一枚受け取り、買い物かごの中に適当に入れ、そのままスーパーへ向かった。
その時のソユンにとって、その紙切れは息苦しい日に買った五千ウォン分の空想にすぎなかった。
数日後、
その紙切れが三十二億ウォンになるとは知らずに。