エピソード 18 / 50
都市は人を臓器として分類した。
ミラが第19空気浄化区域の床に座り、送風機の振動を聞いていたときだった。
02:03:11。
羽根が砕けるまでの残り時間は、少しずつ減っていた。
セナはフィルター室の壁に手を当てたまま言った。
「振動が大きくなってる」
「分かってる」
「フォージの倉庫からベアリングさえ持ってくれば助けられる」
「移動制限は解除された?」
セナが手首画面を上げた。
移動不可資源。
必須保守技術者。
指定位置:空気浄化第19区域。
離脱許容距離:30メートル。
「今変わった」
ミラは自分の手首を確認した。何も表示されなかった。機能権限を失った彼女は、都市が保存すべき資源にも含まれていなかった。
残りの作業員五人の画面にも、同じ文が出ていた。
「誰が承認したの?」
セナが分類の詳細を開いた。
都市継続性非常保存令。
承認者:手の委員会議長エリアス。
施行:エイジス。
「私たちをここに縛って、何を保存するつもり?」
「送風機」
「部品は2.4キロ先なのに?」
ミラは答えられなかった。
都市は壊れた臓器の隣に技術者を縛りつけ、それで治療が終わったと思っていた。
遠隔ロックキーからヨナの声が聞こえた。
「ミラ、倉庫台帳を開けた」
「42個、どこへ行った?」
「持ち出し先が人じゃない」
「どういうこと?」
「第3都市 生殖系譜保存」
ヨナが台帳を読んだ。
外部環境用フィルター42個。
生殖可能人口24名。
転換期観察対象6名。
必須技術者12名。
帰還優先順位なし。
ミラは最後の文をもう一度読んでくれと言った。
ヨナがさらにゆっくり読んだ。
「帰還優先順位なし」
「探査隊じゃなかったんだ」
「外へ送り出した都市の一部だった」
ヨナの後ろで金属扉が閉まる音がした。
ノアが言った。
「ヨナ・バル。指定位置へ戻ってください」
「あなたが言ってるの? エイジスが言ってるの?」
「エイジスの命令を伝えています」
「私はどの臓器?」
少し沈黙が流れた。
ノアが読んだ。
「外部経路必須技術者」
「道まで技術になったんだ」
「旧隔離室へ戻らなければ通路が遮断されます」
「そこは370メートル先。この倉庫から私の許容距離は?」
「10メートルです」
ヨナが笑った。
「じゃあ命令同士で喧嘩してて。私は台帳をもっと見るから」
通信が切れた。
ミラはエリアスを呼び出した。
彼は出なかった。
代わりに都市全体へ新しい文が現れた。
都市継続性非常保存令を施行します。
必須人口の任意移動を制限します。
現在位置を維持してください。
あなたは都市の生存に必要です。
第19区域の作業員一人が画面を読んで言った。
「必要だって」
別の作業員が聞いた。
「昨日までは低生存寄与だったのに?」
「今日は送風機の横にいるから」
「明日、送風機が壊れたら?」
誰も答えなかった。
ミラは廃粉塵管から連結棒を抜いた。先についていた白い糸が、少し前より長くなっていた。糸は床の水気へ向かってゆっくり曲がった。
「セナ、これを切って密封して」
「どこへ行くの?」
「フォージ倉庫」
「部品を出してくれないよ」
「私が必須技術者じゃないなら、移動はできるでしょ」
「だからって出してくれるわけじゃない」
「じゃあ持ってくる」
境界警備員が扉を塞いだ。
「ミラ・ハン。公開裁判要求対象者は保護区域を離脱できません」
「さっきまで保護区域じゃなかった」
「非常保存令の施行により、第19区域は必須施設保護区域へ転換されました」
「私は必須資源じゃないでしょう」
「保護区域内の非必須人口は、秩序維持完了まで離脱できません」
ミラは境界警備員を見た。
「必要な人も出られないし、必要じゃない人も出られない」
彼の手首に青い光が点いた。
境界警備員。
移動不可資源。
指定位置:ミラ・ハンから3メートル以内。
彼は初めて動揺した顔をした。
「この命令は間違っています」
「あなたが私を守らないと都市が生きられないって計算したのかも」
「再分類を要請します」
「誰に?」
彼は答えられなかった。
第6区域に空気は戻ったが、都市の通路が止まり始めた。
食料配分者は倉庫に縛られた。
冷却技術者は壊れた冷却区域に縛られた。
妊娠中の住民は最寄りの生命合成観察室へ移動するよう命令されたあと、そこから出られなくなった。
機能0、または未確定機能を持つ子どもは転換期保存対象に分類された。
子どもたちの指定位置は、自分の家ではなかった。
イアンの画面には生命合成下層区域旧隔離室が表示された。
リナの培養槽にも同じ文が出た。
移動不可資源。
転換期生命体。
ダニエルが培養槽画面を拳で叩いた。
「生命体?」
サラが言った。
「分類名です」
「人って言葉はどこへ行った?」
「法的身体類型が確定していないからです」
「お前が説明したらましになるのか?」
リナがガラスの内側から言った。
「パパ」
ダニエルが手を下ろした。
「悪い」
「私は移動しない」
「自分で決めたのか?」
リナは培養槽の上の黒い文を見た。
「違う」
「なら出よう」
「今は、私が出たら槽が止まる」
「それも自分で決めたのか?」
リナは答えなかった。
ダニエルは培養槽の手動車輪ロックを外した。車輪は動かなかった。エイジスが制御する電子固定ピン四本が床溝へ下りていた。
彼はレンチを持ってきてピンカバーを開けようとした。
サラが止めた。
「今、槽を傾けたら接続管が裂ける可能性があります」
「だからここへ置けって?」
「リナが動けるようにしてから移すべきです」
「その間に都市が娘を物として登録しても?」
リナが言った。
「パパがピンを壊すのも、私が決めたことじゃない」
ダニエルの手が止まった。
「じゃあ、お前が言って」
「私は今ここにいる」
「命令のせい?」
「ミラが戻るまで」
「あの女を待つのか?」
「私が待つの。パパが許すって意味じゃない」
ダニエルはレンチを床へ置いた。
「ピンは壊さない」
「ありがとう」
「でも、あの文字は消す」
彼は培養槽画面へ作業布を掛けた。
イアンは旧隔離室の入口に立っていた。
扉を越えると手首標識が振動した。
一歩下がると止まった。
彼はまた足を出した。
標識がさらに強く鳴った。
「やめなよ」
リナが言った。
「どこまで止めるのか見てる」
「分かったら出るの?」
「分からない」
イアンは敷居へつま先を置いたまま、エリアスに聞いた。
「僕が都市を救えるから、出られないんですか?」
エリアスは旧隔離室中央で複数の画面を同時に見ていた。
「君の能力を利用するという命令ではありません」
「じゃあ、どうして?」
「外へ移動するとき、君に必要な防護装備と医療人員を確保するまで危険を減らすためです」
「僕の危険?」
「そうです」
「都市の危険?」
エリアスがイアンを見た。
「両方です」
「二つが違ったら、どっちを先に減らすの?」
エリアスは答えられなかった。
ラヒムが音声管を開いた。
「議長、第8区域で妊婦三人が観察室への移動を拒否しています。境界警備員が連れていくんですか?」
「強制移動は承認していません」
「でも観察室の外にいると配給標識がロックされます」
エリアスが非常保存令の詳細項目を開いた。
生殖系譜保存対象は指定観察室を離脱した場合、医療配給を保留する。
彼はその文を初めて見る人のように読んだ。
ラヒムが聞いた。
「承認したんじゃないんですか?」
「私が承認した文言は、必須人員の現位置保存と移動資源の事前配分です」
「エイジスが人の種類を付けたのは?」
「継続性保存規定を適用したのです」
「その規定は誰が作ったんです?」
エリアスは答えを見つけた。
都市継続性保存規定 第4次改訂。
11年前。
改訂提案:手の委員会生存行政分科。
当時エリアスは議長ではなかった。生存行政分科の記録官だった。
彼は議事録を作成し、反対意見二件を本文下へ添付した。
必須技術者の離脱は他の市民の生存を侵害する。
生殖可能人口と転換期児童は都市再建可能性を構成する。
個人は継続性危機の間、自らの位置を任意に変更できない。
最後の行の下に彼の電子署名があった。
記録確認:エリアス。
ヨナから呼出が入った。
「議長、この台帳、あなたの名前を知ってるよ」
エリアスが接続した。
ヨナが11年前の持ち出し記録を公開チャンネルへ送った。
フィルター42個を受け取った人々の名前は消されていた。
代わりに機能と身体状態だけが残っていた。
酸素膜技術者4。
種子培養者3。
保守列車運行者2。
妊婦7。
生殖可能成人17。
転換期児童6。
その他医療支援3。
「私たちの探査隊じゃなかった」
ヨナが言った。
「都市が42人を第3都市へ送ったんだ。フィルターも一人一個ずつ」
エリアスが聞いた。
「帰還記録は?」
「ない」
「死亡記録は?」
「ない」
「第3都市の受入記録は?」
「向こうの台帳で、出身記録のない住民31人を見つけた」
「残り11人は?」
「分からない。だから人は名前でなきゃだめなんだよ」
エリアスは名簿の空欄を見下ろした。
ヨナが言った。
「あなたが承認した?」
「当時、私は承認権者ではありませんでした」
「じゃあ責任は何もない?」
「議事録を書きました」
「何て書いた?」
エリアスは11年前の自分の文を読んだ。
「都市を維持する人的資源の再配置は不可避である」
旧隔離室の人々が彼を見た。
ヨナが聞いた。
「あの人たちは行くって言った?」
「議事録に同意手続きはありません」
「戻れないことは?」
「記録されています」
「知ってて書いたの?」
エリアスは長く答えなかった。
「はい」
「なぜ?」
「当時、第7都市の生殖系譜損失率は38パーセントでした。第3都市は機能性ウイルス流出後、技術人口の大半を失ったと報告されていました。二つの都市が互いに必要な人間を送れば、どちらも生き残れると考えました」
「人々には何て言った?」
「第3都市長期支援勤務と通知されました」
「長期が11年?」
エリアスは言えなかった。
ヨナがフィルター倉庫の壁を叩いた。
「私の弟はその道で死んだ。存在しない探査隊の記録を探して帰る途中で」
「その計画とあなたの探査隊には7年の差があります」
「道は同じ。誰かが先に開けて、名前を消して、後から初めての道みたいに私たちを送った」
ノアが割って入った。
「通路遮断まで30秒です」
ヨナが言った。
「ここから出る。六個は持っていく」
「あなたの許容距離は10メートルです」
「捕まえる?」
ノアは答えなかった。
画面が揺れた。
ヨナがフィルター箱を持ち、ノアは扉の前に立っていた。
「どいて」
「あなたが戻らなければ外部経路を確保できません」
「だから戻るんだよ」
「命令上、現在位置を維持しなければなりません」
「どっちか一つ選んで」
ノアの手は武器へ向かわなかった。
彼が扉脇の手動レバーを引いた。
通路扉が閉じる直前で止まった。
「12秒間、通過できます」
「あなたも移動不可資源でしょう」
「私の指定位置は、あなたから5メートル以内です」
「便利だね」
「便利ではありません」
二人はフィルター箱を持って走った。
第8区域では妊婦一人が観察室の前で倒れた。
名前はマレン・オチョア。
妊娠19週。
機能は水分回収膜検査員。
エイジスはマレンを二度分類した。
生殖系譜保存対象。
必須技術者。
二つの指定位置は1.8キロ離れていた。
マレンは観察室へ行けという標識に従っていた途中、水分回収所へ戻れという命令を受けた。方向を変えるたび手首標識がロックされた。三度目の警告後には医療配給まで保留された。
吐き気止めの薬を受け取れなかった。
彼女は通路で脱水により倒れた。
境界警備員はマレンをどちらへ運ぶべきか決められなかった。
どちらも離脱禁止区域だったからだ。
ラヒムが現場映像をエリアスへ送った。
「この人、どこへ運ぶんです?」
エリアスが言った。
「医療区域へ」
「命令に逆らって?」
「そうです」
「誰の責任で?」
エリアスは画面にある自分の名前を見た。
「私の責任で」
「今の言葉、記録します」
「記録してください」
境界警備員二人がマレンを担架へ移した。
手首標識が赤く点滅した。
保存対象離脱。
都市継続性リスク増加。
エリアスは非常保存令を撤回しようとした。
エイジスが尋ねた。
撤回時、必須人員離脱可能性が増加します。
空気・水分・電力施設の6時間以内連鎖停止確率27パーセント。
外壁移動準備失敗確率64パーセント。
続行しますか?
彼の手が止まった。
公開チャンネルにミラの声が入った。
「エリアス」
「聞いています」
「こっちの送風機、二時間も残ってない。セナを部品取りに出したら、ここは修理人員が減る。出さなければ部品がない」
「代替人員を配分します」
「代替できる人はフォージ倉庫の中に縛られてる」
「制限を個別調整できます」
「誰を解放して、誰を縛るんです?」
「施設ごとの必要量を計算して」
「人が選ぶべきだって言ったでしょう」
エリアスは答えなかった。
ミラが言った。
「機械が名簿を作って、あなたが確認したら、人が選んだことにはならない」
「何の制限も置かなければ、技術者が家族を連れて外壁へ殺到する可能性があります」
「あり得ますね」
「そうなれば、残った市民の空気と水が止まります」
「だから話して頼むんです。残ってほしいって」
「拒否したら?」
「その人を縛るかどうか、私たち同士で顔を見て決めるべきでしょう」
「その手続きを作る間に施設が止まる可能性があります」
「だから、あなたがもっと早く始めるべきだった」
送風機故障予想時間が公開チャンネル上に浮かんだ。
01:41:26。
エリアスは11年前の名簿をもう一度見た。
人の代わりに機能が書かれていた。
彼は当時、それが公平だと思っていた。名前を消せば、個人的な好意や縁故が介入しないと信じていた。
その結果、誰も消えた人を探せなくなった。
「非常保存令を撤回します」
エイジスが同じ質問を繰り返した。
連鎖停止確率27パーセント。
外壁移動準備失敗確率64パーセント。
続行しますか?
エリアスが言った。
「続行する」
承認者の音声確認が必要です。
「手の委員会議長エリアス。都市継続性非常保存令を撤回する」
撤回事由を述べてください。
エリアスは旧隔離室のイアンとリナを見た。
「人は都市の臓器ではない」
撤回が記録されました。
手首画面の赤い文が消えた。
だが、ロックされた扉は開かなかった。
エイジスが説明した。
非常保存令の撤回完了。
施設別保護規定は、個別管理主体の承認が必要です。
フォージ生産系譜人員制限 維持。
ブルーム生殖系譜・転換期観察対象制限 維持。
エイジス境界必須人員制限 維持。
エリアスが言った。
「すべて解除しろ」
権限がありません。
「手の委員会議長権限で命令する」
非常保存令は、各層の既存規定を一時的に統合しただけです。
個別規定は各管理主体が承認しなければなりません。
「なら手の委員会を招集する」
委員11人のうち接続できたのは4人だけだった。
三人は指定位置に縛られていた。
二人は通信が切れた区域にいた。
一人は外壁移動反対デモへ参加し、一人は応答しなかった。
議決定足数が足りなかった。
エリアスは市民公開チャンネルを開いた。
「現在の移動制限は、私の承認で始まりました」
都市のすべての画面に彼の顔が現れた。
「その命令は、技術者と妊婦と子どもを都市の必要に応じて縛りました。私は施設を守ろうとしました。その結果、マレン・オチョアは治療を受けられず、必要な部品を取りに行く人間も動けなくなっています」
反応文が画面下に高速で流れた。
空気が止まったら誰が責任を取るんですか。
技術者が先に逃げたら止めるべきです。
妊婦をなぜ資源と呼ぶんですか。
私たちの区域はもう制限されています。
外壁移動から中断してください。
エリアスは続けた。
「11年前、同じ規定で42人が第3都市へ送られました。彼らの名前は記録から消され、帰還は計画されませんでした。当時私はその手続きを記録し、反対しませんでした」
反応文が一時遅くなった。
「今日、私は同じ規定をもう一度作動させました。責任をシステムへ渡しません」
誰かが公開チャンネルで聞いた。
「それで、今私たちに何をしろというんです?」
エリアスが答えた。
「施設ごとに残るべき最低人数と移動する人数を公開します。当事者が先に選び、不足する席はその区域の住民が抽選します。強制的に縛るべきだという決定が出た場合、命令した人の名前と、縛られる人の名前を一緒に記録します」
「時間がないでしょう」
「第19区域は1時間37分残っています」
ミラがチャンネルで言った。
「セナ一人を出して。ここは五人残れば、部品が来るまで持たせられる」
セナがミラを見た。
「私、行くって言ってない」
「だから今、聞いてるの」
セナは送風機の振動を聞いた。
「フォージ倉庫まで道を開けてくれるなら行く」
エリアスが記録した。
第19区域資源志願者:セナ・パク。
目的:送風機ベアリング回収。
危険:移動中胞子曝露、帰還遅延時第19区域送風機破損。
セナが言った。
「資源じゃなくて人」
エリアスが消した。
第19区域移動者:セナ・パク。
「それでいい」
フォージ倉庫は応答しなかった。
セナが第19区域の扉を出ると、手首標識の制限文が消えた。
境界警備員がついていこうとした。
ミラが言った。
「あなたはここに残って。一人さらに抜けたら圧力扉を閉められない」
「命令ですか?」
「お願い」
彼は少し考えてから扉の横に立った。
「残ります」
第8区域医療室ではマレンが意識を取り戻した。
胎児心拍は維持されていた。
マレンは公開チャンネルを見るなり言った。
「私の名前で子どもを数えないで」
ラヒムが聞いた。
「どういう意味です?」
「生殖系譜一つ、妊婦一人、そんなふうに数えないで」
「では、どう記録しましょう?」
「マレン・オチョア。水分回収膜検査員。今日は患者」
ラヒムがそのまま書いた。
旧隔離室では、リナの車輪固定ピンが上がった。
ダニエルは培養槽を押さなかった。
「今もここにいるのか?」
リナが言った。
「うん」
「なぜ?」
「私が決めたから」
イアンは敷居を越えて廊下へ出た。
手首標識は振動しなかった。
三歩歩いたあと、またリナのそばへ戻った。
「あなたも出ないの?」
リナが聞いた。
「今は」
「なんで?」
「僕が決めたから」
ヨナとノアが六個のフィルターを持って戻ってきた。
ヨナは箱を置くなり、エリアスへ紙を一枚差し出した。
11年前の持ち出し者名簿の原本だった。
機能の下に押し込まれていた名前が、熱で浮き出していた。
最初の名前はエヴァ・ラオ。
転換期観察対象。
当時年齢4歳。
「第3都市のラオは十三歳って言ってたよね?」
ミラが聞いた。
「あの子は男で、自分の名前はラオだとしか言わなかった」
「家族名かもしれない」
ヨナが次の行を指した。
エヴァ・ラオ。妊娠31週。
同じ名前が二度書かれていた。
「一人は子どもで、一人は妊婦」
サラが言った。
「誤記かもしれません」
「違う」
ヨナが紙の裏を開いた。
家族単位表記を禁止する。
個別機能単位で記録する。
同名であっても別個の資源として算定する。
エリアスが文を読んだ。
「子どもと母親を、互いに分からないよう分離したのです」
ヨナが言った。
「第3都市でラオは自分の年齢を知らなかった。記録では十五なのに、十三だって言った」
「11年前に4歳なら、今は15歳です」
「そう」
リナが聞いた。
「ママは?」
ヨナが名簿をさらに読んだ。
エヴァ・ラオの横には帰還不可という表示があった。
児童ラオの横には移管完了と書かれていた。
「分からない」
ヨナが言った。
「でも、第3都市が私たちを受け入れない理由は調べられる」
彼女は保守列車の路線を画面へ出した。
南西保守鉄路。
外壁まで4.6キロ。
雨が止んだ後の通過可能時間は、もう7時間21分だった。
ミラが聞いた。
「列車運行者は?」
エリアスが人員表を確認した。
保守列車運行者2名。
フォージ生産系譜必須人員。
移動制限維持。
「フォージが解除しなければなりません」
「接続して」
フォージは今回も応答しなかった。
代わりに都市西部で電力警報が出た。
保守鉄路 電力供給停止。
理由:核心生産施設保存。
ヨナが言った。
「私たちの話、聞いてたね」
外壁まで続く線が、地図上で黒く消えた。
第19区域送風機の故障予想時間は1時間29分。
セナが部品を取りに行く道はまだ開いていた。
しかし、人々を外へ運ぶ列車は動かなかった。